ラビンドラナート・タゴールの詩
ラビンドラナート・タゴール
1861年5月7日 7人兄弟 末っ子。家は10世紀以来の名家で、本来はタークルという呼び名。父は、近代インドの父と見られるラームモーハンローイの弟子で、後にその跡をつぎマハーリジ(人聖)と呼ばれた聖者。タゴールは、近代インドの最高峰の詩人であり、思想家。アジアで始めてのノーベル文学賞を受賞。詩聖として尊敬される他に、音楽・戯曲・小説・絵画・思想・哲学など、あらゆる面で優れた才能を開花させる。その深い智恵と高い精神性は、多くの人達に多大な影響を与えた。自然教育にも力を注ぎ、シャンティニケタン(平和の郷)に、タゴール国際大学を設立する。インド国歌・バングラディッシュ国歌の作詞作曲者としても名高い。
この偉大な宇宙の中に
この偉大な宇宙の中に
巨大な苦痛の車輪が廻っている
星や遊星は砕け去り
白熱した砂塵の火花が遠く投げとばされて
すさまじい速力でとびちる
元初の網の目に
実在の苦悩を包みながら。
苦痛の武器庫の中では
意識の領野(りょうや)の上に広がって、赤熱した
責苦の道具が鳴りどよめき
血を流しつつ傷口が大きく口をあける
人間の身体は小さいが
彼の苦しむ力はいかにはてしないか
創造と混沌の大道において
いかなる目標に向かって、彼はおのれの火の飲物の杯をあげるのか
奇怪な神々の祝宴で
彼らの巨大な力に飲みこまれながら――おお、なぜに
彼の粘土のからだをみたして
狂乱した赤い涙の潮が突進するのか?
それぞれの瞬間に向かって、彼はその不屈の意志から
かぎりない価値を運んでゆく
人間の自己犠牲のささげもの
燃えるような彼の肉体的苦悩――
太陽や星のあらゆる火のようなささげものの中でも
何ものがこれにくらべられようか?
かかる敗北を知らぬ剛勇の富
恐れを知らぬ堅忍
死への無頓着――
何百となく
足の下に燃えさしを踏みつけ
悲しみのはてまで行く、このような勝利の行進――
どこにこのような、名もなき、光り輝く追求
路から路へと辿(たど)る共々の巡礼があろうか?
火成岩をつき破るこのように清らかな奉仕の水
このようにはてしない愛の貯えがあろうか?
百年後
いまから百年後に
わたしの詩の葉を 心をこめて読んでくれる人
君はだれかー
いまから百年後に?
早春の今朝の喜びの 仄かな香りを、
今日のあの花々を、鳥たちのあの唄を、
今日のあの深紅の輝きを、わたしは
心の愛をみなぎらせ 君のもとに
届けることができるだろうかー
いまから百年後に。
それでも、ひととき 君は南の扉を開いて
窓辺に座り、
遙か地平の彼方を見つめ、物思いにふけりながら
心に思いうかべようとするー
百年前の とある日に
ときめく歓喜のひろがりが、天のいずこよりか漂い来て
世界の心臓(こころ)にふれた日のことをー
いっさいの束縛から解き放たれた 奔放で うきうきした
若やいだ早春(ファルグン)の日のことをー
羽ばたく翼に 花粉の香りをいっぱいのせた
南の風が
にわかに 吹き寄せ 青春の色調で
大地を紅く染めたのをー
昔の時代(とき)から百年前に。
その日、生命たぎらせ、心に歌をみなぎらせて
なんと詩人は目覚めていたことか、
どんなにか愛をこめ どんなにか多くの言葉を
花のように咲かせたがっていたことか!
百年前の とある日に
いまから百年後に
君の家(うち)で、歌って聞かせる新しい詩人は誰か?
今日の春の歓喜(よろこび)の挨拶を、わたしは その人に送る。
わたしの春の歌が、しばし君の春の日に こだましますように。
君の心臓(こころ)の鼓動のなかに、若い蜂たちのうなりのなかに、
そして、木の葉のざわめきのなかにも、こだましますように。
いまから百年後に。
|